エテ 庄司夏子社長インタビュー

「シェフとしてもパティシエとしても賞をいただいていますが、経営者としての受賞は今回が初めて」と話された第1回東京女性経営者アワード[継続成長部門]受賞の株式会社エテ 代表取締役社長 庄司夏子さんのお店で取材させていただきました。

東京女性経営者アワード
継続成長部門受賞

規模は関係ない。本物をつくれば世界的な評価が得られる!
株式会社エテ 代表取締役社長 
庄司夏子さん

2021.01.15

23歳で独立、芸術作品のような幻のケーキで一躍注目を浴び、1日1組限定レストランのオーナーシェフとして独自のブランドを確立。「Asia’s Best Pastry Chef 2020」*の受賞など世界からも評価されている庄司夏子さん。規模を拡大せずに増収増益を続けている経営手腕、ブランディングとカスタマーリレーション、そして独創的な発想やモチベーションの源泉などについてお話いただきました。

売上よりもブランドの確立を優先する戦略

私が起業した23歳の時、融資してもらえたのは少額でした。少ない資金ではマンションの一部屋ぐらいしか借りられないし、自分一人ですべてを賄い、また長く続けられるためにはと、1日1組限定というスタイルを選びました。もちろん目先のお金を考えたら1日2組にすれば売上は2倍です。でも私は売上よりもまず「ブランド」を確立するのが先決と思っていました。料理のクオリティやエクスクルーシブな空間づくりによって、お客様一人一人の満足度を確実に上げること、それが何よりも大切だと。

まず、ケーキから始めることにしました。なぜなら、年齢も若く女性だということで料理業界ではハンデが多く、いきなりレストランをオープンしても失敗するリスクがあると感じたからです。「大切な人に贈る特別なギフト」というコンセプトのケーキを1台1万数千円〜2万円で予約販売することにしました。それで、「été(エテ)」というブランドの認知度を上げるためには、多種類のケーキを出すと遠回りになってしまうので、「幻のケーキ」と呼んでもらえるまでマンゴーのケーキ一本で勝負することに決めました。「3秒でété=庄司夏子のケーキだとわかるもの」が作りたかった、そんな想いもありました。

ケーキが軌道に乗るまでに3カ月。多くのメディアで取り上げていただいたおかげで、一時期はアクセスが殺到してサイトがクローズするぐらいに話題沸騰となりました。目標に掲げていた「幻のケーキ」というのが現実となり、結果的に1年後にはレストランをスタートできました。予約困難なケーキがあり、その奥に実は夢のようなレストランがあるとなれば、来ていただけないはずがない。そう信じてお客様にアプローチしていきました。

規模の拡大はせず、別の領域でブランドを広める

私は、クリエイションで100%の完成度を出すためには、お金をいとわないことにしています。それでも蓋を開けてみたら数字がともなっていて、増収増益でここまでこられました。ただ、2人のスタッフを雇うために会社組織にしてからは、スタッフ自身だけでなく家族も守る責任を感じ、絶対的に増収しないといけないという覚悟をもってやっています。20歳そこそこのスタッフの親御さんが心配しないように、もちろん社会保険は完備していますし、繁忙期ボーナスを年間何度も渡したりしています。税理士さんには「黒字じゃないときがあったら教えてほしい」と言ってある程度で、そんなに日々お金のことを気にする間も無く、とにかくがむしゃらに働いています。

最近、「カフェをやりませんか」と海外の投資家からオファーがあったり、店舗展開を勧められたりすることが増えました。ありがたい話ではありますが、私は規模の拡大をしないと決めているんです。この規模でやっているからこそ、予約の取れる限度も決まっていて、絶妙なバランスで成り立っている。それなのに欲を出して、例えばホテルに巨大なショップをオープンしたら、エクスクルーシブでなくなってしまい、ブランドを失ってしまう。

とはいえ、やはり新しいインカムをつくる道も必要なので、他の領域のアーティストとのコラボレーションなど、料理業界とは違うラインで「été」というブランドを広めることを積極的に進めています。これまでにも、村上隆さんをはじめとする世界的なアーティストに自分からアプローチして機会をつくってきました。現在も、ストリート系のファッションデザイナーとのコラボなど、いくつかのプロジェクトが同時に動いています。

突き進むモチベーションの起源は二つ

何が自分を突き動かすのか。二つあって、一つは「覚悟」というべきでしょうか。起業した23歳で1000万円借金をし、家庭の事情で親に頼ることはできず、自立するために最短ルートで成功することを考えた。1ミリの無駄もできないと思った。それがまず、私がパワフルに動ける起源です。

もう一つは、新しい料理の価値を見出したい、文化をつくりたいという想いです。例えば、一つの料理をつくるにあたって材料の野菜は農家さんが1年かけてつくり、ソースは我々が2日かけてつくり、料理人の創造性を集めて調理した一皿が出来上がる。そこにはアート作品をつくるのと同じようなこだわりやクリエイティビティや時間が凝縮されています。

私は料理とアートは同じだと思っていますが、現実的にはアート作品が何十億円という一方で、我々の仕事は一皿数千円という世界です。得られるお金が少なくて、感性を磨くために一流のものに触れようとしてもお金も時間もない。長時間にわたる重労働で女性が働きやすい職場でもない。離婚率も高い。その結果、料理人になりたい人が減っているのが現実です。

日本が世界に誇る料理というアートが低く評価され、廃れようとしている。その動きを食い止めて、料理人になりたいという若い人を、もちろん女性も、増やしたいんです。

顧客との信頼を築き、顧客のプライドを守る

étéの価格設定は決して安くはありません。料理のクオリティはもちろんのこと、四季ごとに変わるインテリアはハイブランドのショーウィンドウを手がけた人に特注したものだったりもします。そういう一流のものに囲まれて食事をするのは素晴らしいことであり、その対価としてしっかりお金をいただきますというスタンスは一貫して変えていません。それでもファンになってくれるお客様やサポートしてくれるお客様をとても大切にしています。

お客様をどのように大切にするか。それについては、ファッションの世界や航空会社のサービスに学んだ部分が多くあります。もともと私の好きなファッションの世界では、VIPになるとデザイナーと会えて、一緒にご飯を食べられて、ガラディナーやスペシャルパーティに行けるという風なストーリーがあります。私も、étéのケーキをずっと支えてくださるお客様にレストランへのご案内をしたり、 étéの顧客であることに誇りを持っていただく、また、お客様のプライドを守っていくことを継続できるよう努めています。

また、自分でお金を払ってファーストクラスに乗ってみて、機内食がどう違うとか、プライオリティレーンなどのVIP対応がどうなっているとか、一流のお客様がどういう目線かを知るために航空会社のサービスをリサーチしたりもしています。

今のようなコロナ禍においては、とりわけお客様との絆、信頼、コミュニケーションが重要だと思っています。規模は小さくてもお客様の満足度を最大限に高めて、永続的に愛していただける関係を築くこと。それがétéのブランドを守り、お客様のプライドを守ることにもつながると思います。

料理人としての世界的な評価を得て、新しい料理の価値を創り出したい

2020年、「アジアのベストレストラン50(Asia's 50 Best Restaurants)」において「Asia’s Best Pastry Chef」*の賞をいただきました。「パティシエ」としての受賞です。何より嬉しいのは、規模の小さい店でも本物をつくれば世界的な評価が得られると証明できたことです。また、東京都の「東京女性経営者アワード」でも経営手腕を評価していただきました。この新たなビジネスモデルを広く女性に、若い世代に知ってほしいと思います。

次に目指すのは、「料理人」として世界的な評価をいただくことです。特にアワードに執着しているわけではありませんが、受賞した結果としていろいろなことを掴めるし、自己紹介が一言でできるのはブランドとしての強みにもなるので。
そして、日本において料理人になりたいと思う人を増やし、新しい料理の価値を創り出していきたいと思います。

*「ヴァローナ社 アジアのベスト・パティシエ賞(Asia's Best Pastry Chef 2020, sponsored by Valrhona)」
イギリスのウィリアム リード ビジネス メディア社が主催するランキング「アジアのベストレストラン50(Asia's 50 Best Restaurants)」の部門賞の一つ。

庄司 夏子
株式会社エテ 代表取締役社長

1日1組限定のフレンチレストラン「été(エテ)」のオーナーシェフ。オリジナルケーキの予約販売など、新しい発想の経営をし、「アジアのベストレストラン50」において日本人女性初「Asia’s Best Pastry Chef 2020」を受賞されています。

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