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耳を傾けることで見えてくる、企業の進むべき方向
日本マクドナルド株式会社 代表取締役会長、日本マクドナルドホールディングス株式会社 代表取締役社長兼CEO サラ・L・カサノバさん

2019.12.18

言わずと知れたファストフードの最大手、マクドナルドを率いるサラ L. カサノバさんが日本マクドナルド株式会社の代表取締役社長兼CEOに就任してから約6年。現在は日本マクドナルドホールディングス株式会社の代表取締役兼CEOと日本マクドナルド株式会社の代表取締役会長を務める彼女が、試練を乗り越え、再び愛される企業になるために大切にしてきた経営者としてのあり方、視点とは。

「Yes, I will.」で未来を切り開き、全体を見渡せる経営者に

――経営者を目指したきっかけはなんだったのでしょうか。

28年前にカナダのマクドナルドに就職した時には、社長になろうとは思ってもいませんでした。勤めたいと思った唯一の会社がマクドナルドで、オンタリオ州のマーケティングマネージャーになることが当初の目標でした。ところが、入社してみると次々とチャンスが訪れました。ロシア、トルコ、ウクライナ、マレーシア、日本といった諸外国への転勤の話も、昇進の話も、与えられた機会に対して、すべて「Yes, I will.」と答えて前進するうち、気付いたら経営者の立場にいました。

――企業のトップに就任して見えた課題はどのようなものでしたか。また、経営者になる前に見えていた景色と、経営者になってからとでは異なりますか。

2007年に最初に来日したときにはまだマーケティングの責任者という立場でした。その後、マレーシアへの異動を経て2013年に再来日。日本マクドナルド株式会社の代表取締役社長兼CEOに就任した時にはすでに業績不振が始まっていました。ですから、最初に直面した大きな課題は、業績不振の理由を突きとめ、お客様の信頼を取り戻すこと。そして、その方法をみんなで考えることでした。

まずはお客様の声に耳を傾け、マクドナルドに何を求めているかを探らなければなりません。この取り組みのひとつとして、わたしは47都道府県すべてを訪れ、お客様の生の声を聞いて回りました。そこで何度も耳にしたのが、「マクドナルドらしさを取り戻してほしい」という声でした。清潔ですっきりした店内で、従業員が笑顔で提供する安くておいしいハンバーガーとポテト――お客様が求めているのはこれなのだと。それを念頭に改革案を練り上げました。そこからは全員が同じ方向を向いて実行することができたので、成果を出せたのではないかと思っています。

トップに就任する前は最高マーケティング責任者(CMO)という立場でした。その時にはすべてのことをマーケティング視点から見ていたのに対し、経営者になると会社全体を経営視点で見渡すようになりました。ひとつひとつのピースがどう組み合わさって機能しているかを理解して、全員の力をどう引き出して成果を最大化するかを考えるのが経営者です。

居場所と立場が変わっていく中、その場その場で必要なスキルを身につける

――ご自身のキャリアの中でターニングポイントだったと思う出来事があれば教えてください。

ターニングポイントはいくつもありましたが、大きく4つですね。1つ目は、マーケティングの責任者として、カナダからロシアに移ったときです。初めての海外勤務でロシアというわたしがこれまで行ったことのない国に行くことになりました。当時のロシアにはまだマクドナルドは1店舗しかありませんでした。お客様は英語を話しませんし、嗜好もカナダのお客様とは異なります。ロシアのお客様はマクドナルドに何を求めているのか、お客様の声を丁寧に拾うことを学びました。

2つ目は、6年間のロシア勤務を終え、カナダに戻ったときです。ロシアと違ってフランチャイズが何店舗もある複雑なシステムの中では、事業者たちにマーケティング戦略を理解させ、浸透させるというミッションに向き合いました。

3つ目は、日本からマレーシアに移ったときです。このときに初めて経営者職を任されました。それまではマーケティングだけに集中していたのが、事業全体を見渡すことになりました。4つ目は、マレーシアから再び日本へ経営者として戻ってきたときです。就任直後にビジネスで難しい局面に直面したのですが、問題解決に一丸となって全力で取り組んだことが、このあとの成長のきっかけになったと思っています。

話を聞くこと、人と関わることで、ピンチをチャンスに

――ご自身の経営者としての強みをおしえてください。

そこは社員に聞いてみてほしいところですが(笑)、ひとつはお客様の声を聞くこと、もうひとつは社員やクルーと関わることだと思います。ロシアでもトルコでもウクライナでも他のどの国でも、お客様が求めているものを知るには、実際に話を聞く他に方法はありません。日本だけでも従業員は15万人いるわけですが、わたしは店舗に足を運ぶ時間を大切にしています。お店に行くと、従業員ひとりひとりに話しかけます。なぜ当社で働こうと思ったのか、働き始めて何年かなど、いろいろなことを聞き出すようにしています。

こんな出来事もありました。当社で働き始めて数年目の若い社員が、「伝えたい意見があるが、上司に話そうとしても時間がないと言われてしまうので、あなたと会って話したい」とメールしてきたのです。喜んで招いて話を聞くと、彼女は言いました。「本社の意思決定が遅く、店舗の支援ができていません。一体感が足りないので、若手の同僚たちと一緒に変革したい。全員にワークショップに参加してもらい、従業員が店舗のためにできることを話し合いたい」わたしはすぐに、「なんでも協力する」と約束しました。数ヶ月のうちに、役職に関係なく社員全員が参加して、店舗を支援するためのアイデアや、店舗に対する社員のコミットメントの育て方などについて話し合う会合が開かれました。これはまさに組織風土の改革だったわけですが、従業員の意見を聞こうとする気持ちを持っていたからこそ実現したのだと思います。

――これまでに経営者としてどのような挫折を経験し、またその挫折をどのように乗り越えてきましたか。

どんな経営者でも挫折はありますよね。わたしにとって最大の挫折は、経営者として再び日本に戻ってきてまもなく発生した2つの品質問題でした。お客様の信頼と従業員の士気を取り戻し、業績を回復させなければなりませんでした。これは挫折ではあったのですが、同時に、お客様がマクドナルドに求めているものをつきとめて、それに向かって全員で計画を遂行するという、成長のチャンスでもありました。コラボレーションとチームワークは重要です。マクドナルドの創立者の言葉に、「我々全員がまとまれば、どんな人もかなわない」というものがあります。本当にその通りですね。

28年前にマクドナルドに入社したのは、マクドナルドのバーガーが好きだから。そして今もここで仕事をしているのは、マクドナルドの人が好きだからなんです。

サラ・L・カサノバ
日本マクドナルド株式会社 代表取締役会長、日本マクドナルドホールディングス株式会社 代表取締役社長兼CEO

カサノバ氏のリーダーシップのもと、日本マクドナルドは2016年よりビジネス基盤を強化、2017年度の一店舗当たりの平均月商は上場以来最高の水準となり、2019年上半期は上場以来過去最高の経常利益を達成。1991年マクドナルド・カナダに入社、マクドナルドには28年の在籍。内22年はカナダ国外で要職を歴任している。ロシアで最初のマーケティング・ディレクターに就任、その後トルコ、ウクライナ、ベラルーシ、カナダ、マレーシア、日本で勤務。日本には2004年から2009年CMOとして勤務。その後、2009年にマレーシアのマネージング・ディレクターに就任、2013年より日本マクドナルドの社長。2019年より現職。カナダ国籍でカナダ・オンタリオ州マックマスター大学でMBA取得。

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