決算書からは見えない非財務力をいかに育むかが企業の課題
株式会社イー·ウーマン 代表取締役社長/株式会社ユニカルインターナショナル 代表取締役社長 佐々木かをりさん

2019.08.23

「働く女性」のロールモデルとして、そのプロデュース力やリーダーシップに一目置かれている佐々木かをりさんは、起業して以来、30年以上サステナブルな経営を行う経営者でもある。2社を経営しながら、多くの組織をコンサルティングしてきた日々の積み重ねが多くの信頼や実績に繋がっている。「決算書だけでは企業は見えてこない」という佐々木さんが考える企業の価値とは何だろうか。

通訳の仕事の本質に気づいたとき、起業のアイデアを得る

――女性の起業はもちろん、社会進出もまだまだ難しかった1987年に起業されましたが、どのようないきさつがあったのでしょうか。

大学卒業後1年間だけ社員として働いていましたが、その後フリーランスで通訳の仕事を始めました。その時は、起業どころか、自分が仕事を続けることすら想像していませんでした。大学は全授業が英語でおこなわれていましたが、留学は9カ月間のみ。語学力だけをとったら他の優秀な人には敵わないと感じていました。しかし通訳を依頼されると、フットワークが軽いとか通訳のスピードが速いとか、現場が良好に進行する心配りがあるなど、語学力以外の部分も大きく評価対象となっていることに気づきました。たくさんの方に指名していただけたのも、それが理由ではないかと思っています。最近も、「佐々木さんが通訳だと、相手と自分の間に誰もいない感覚で質問もたくさんできるし一緒に笑える。話も弾むし楽しかったから指名していたんですよ」と声をかけられました。

通訳の評判が高まると、「佐々木さんが選ぶ通訳の方たち何人かでこの仕事できますか?」というような依頼が来るようになり、周りの友人に声をかけてチームで仕事を請け負うようになりました。こうして仕事をしているうちに、通訳という仕事に大きな改革の可能性を感じるようになりました。お客さまの視点に立って、コミュニケーションのコンサルタントの役割を果たすことで、通訳者の市場価値を高めることができ、クライアントにも大きく貢献できると考えたのです。さらに仕事の規模が大きくなり、法人化を勧めて下さるクライアントがいたことも相まって、ユニカルインターナショナルを設立しました。

――起業後は取材が殺到したとお聞きしています。世の中の関心はどのようなところにあったのでしょうか。

ユニカルインターナショナルは、フリーランスの通訳者・翻訳者をネットワーク化し、相手のニーズをとことん伺ったうえで適時、適材適所でチームを編成し、ベストなサービスを提供するというコンセプトや、いまその必要性が盛んに議論されている「働き方改革」、つまり育児や介護をしながらもフレキシブルな働き方を実現できるシステムをつくっていました。かなりの先取りですよね。アントレプレナー特別賞も受賞しました。

ユニカルインターナショナルを設立して間もなくの頃

当時20代の女性が一人で会社をつくること自体がとても珍しいことだったため、とにかく取材がたくさん来ました。ただ事業内容や理念などを尋ねられたことはありません。女性の働き方や男女平等の質問ばかり。そうした質問に答えていくうちに、自ずとその分野の知識や関心も増えていったのは確かです。現在、2社目である株式会社イー・ウーマンでは「ダイバーシティ」というキーワードで企業のコンサルティングをさせていただいていますが、その原点はここにあったかもしれません。

80年代から行ってきた優秀な人材のネットワーク化が新たなビジネスへと進化

――順調にスタートしたユニカルインターナショナルですが、ネットワークの概念はどう進化しましたか。

ユニカルインターナショナルでは、仕事のコンセプトや制度以外に1988年から電子メールや電子会議室などを活用し、データベースを構築し、92年には電子メールを使っていない人には仕事を紹介できないと宣言し、96年には日本で最初の女性向けのウェブサイトを開設しました。インターネットは、今まで「活躍」しづらかった女性や地方都市の人たちが、仕事をしたり貢献できる最高のツールだと思ったからです。ですからITとネットワークを活用して会社を進化させて行きました。

外国語スペシャリストのネットワーク、プロ意識のある女性のネットワークの後、日本最初の女性のビジネス会議も立ち上げ、毎年1000人の前向きに働く女性たちが集まる10時間の会議を1996年からプロデュースし、開催してきました。日本で最初の女性経営者ネットワーク・データベースも開始し、女性がビジネス界でお互いにサポートし、繋がり、学べる機会を提供してきました。

また今年は、THE BOARDという女性社外役員のネットワークや、国際的な女性経営者組織WPO(Women Presidents' Organization)の日本支部も立ち上げ、多様なネットワークの参加者募集を始めています。志を同じくする人との繋がりは、重要だと思います。日本最大級、中学生から経営者まで参加する学びと出会いの場となった「国際女性ビジネス会議」は2020年9月27日には第25回目を開催予定です。

今年お台場で開催された「第24回 国際女性ビジネス会議」には、大勢の参加者が集まった

――2000年に株式会社イー·ウーマンを設立しましたが、どのような戦略があったのでしょうか。

ちょうど2人目の子供を出産した時に、「少し長期目標を掲げて大きなプロジェクトに取り組みたい」と思っていたらITバブルと重なり、一連の取り組みやこれまでの実績に対して、投資の話なども入ってくるようになりました。そうなると最早、ユニカルインターナショナルの一事業として行えないと思い、2000年に株式会社イー・ウーマンを設立しました。同時に、ダイバーシティを実践するために、働く女性の声を発信するウェブサイト、「イー・ウーマン」の運営を開始しました。

イー・ウーマンは、「ダイバーシティ視点でイノベーションを起こす」をミッションに、ダイバーシティコンサルティングを行なっています。具体的には、人を育てる、組織を作るという視点で、研修・講演アレンジなどの人財育成、女性役員などの紹介・斡旋、女性経営者・社外役員などのネットワークづくり、「表参道カレッジ」や「国際女性ビジネス会議」の運営など多岐に渡ります。また商品やサービスを多様な視点から改革するという業務として商品開発、企画提案などを行っており、ここからは味の素「トスサラ」、キッコーマンの「うちのごはん」なども生まれました。自社でも、ダイバーシティ視点で開発したサプリメント「メロンリペア」や私の発案「アクションプランナー」手帳の販売などもおこなっています。

佐々木さん発案の手帳「アクションプランナー」と、サプリメントの「メロンリペア」

さらに2018年からは日本で初めて、組織のダイバーシティを数値化する「ダイバーシティインデックス」を開発し、本当の意味で組織の一人一人がダイバーシティを理解し、行動していくことを支援する仕組みも作りました。1年目から参加上場企業8社7000名を対象におこない、これを毎年、継続拡大し、経営の成長率との関係も見ていく予定です。

決算書からは見えないところに企業の可能性を示すポイントがある

――30年以上も続くサステナブルな経営をしてこられましたが、振り返ってみていかがでしょうか。またこれからの課題などもあれば教えてください。

ユニカルインターナショナルの経営は、AI 翻訳ではできない高品質の翻訳や重要なシーンでの有機的な通訳など、グローバル企業のクライアントに喜んでいただきながら、第33期となりました。時代を先取りしたコンセプトと、高品質のサービスが、継続の源です。イー・ウーマンも第20期。こちらも時代の先取り。常に時代を読み、提案し続けるという業務です。やっと「ダイバーシティ」が経済界でも重要課題と認識されるようになり、事業も広がりが出て来ました。

昨今、財務情報以外の非財務情報を重視した「ESG投資」が注目されていますね。この言葉こそ使っていませんでしたが、私は20~30年前からこの重要性について言及してきました。イー・ウーマン設立の際も、株主との関係である「IR」と、消費者との関係である「CR」が一体化し、企業は360度透明性を求められる時代が来るから、イー・ウーマンに集まるスマートコンシューマとのコミュニケーションを重要視して、企業価値を高めることをビジネスとしたい、と語りました。

佐々木さんが手掛けてきた著書と訳書の一部

いま世界的にも、企業経営の評価基準が変わって来ました。決算書が示す会社の姿は1年間の財務情報だけ。しかし財務諸表にでない企業姿勢、例えば環境への配慮、社会への貢献、人材育成などの組織環境、経営のガバナンスなど、ESG、SDGsなど、財務以外の視点でも企業価値をみるようになったのです。この新しい評価の時代に合わせ、企業をダイバーシティ視点でサポートするのが、イー・ウーマンの業務です。

よく、「どこからそのアイディアやエネルギーが生まれるのですか?」と聞かれますが、源は、情熱。パッションです。企業価値の変化同様、個人評価も変わって来ました。短時間の成果や自分のキャリアアップにだけ注目して仕事をする人の評価は、長期的には高くないでしょう。情熱や、愛情、尊敬や、チームワーク、そして、誠実さ、責任などを、私は仕事での価値観として大切にして来ました。これらが、経営が厳しい時もなんとか乗り越えながら、長期経営を実現できた理由だろうと思います。

私のこれからの課題は、生き方の哲学や、会社のビジョンやミッション、バリューを共有し、しっかりと共に歩むチームづくりをしながら、事業拡大をし、仕組み化し、後継者を育てていくことだと思っています。また、社会的には女性役員を増やし、企業のダイバーシティを高める業務をさらに推進していきたいと思っています。

佐々木 かをり
株式会社イー・ウーマン 代表取締役社長
株式会社ユニカルインターナショナル
代表取締役社長

横浜生まれ。上智大学外国語学部比較文化学科卒業。米国ニューヨーク州エルマイラ大学に留学。2008年名誉文学博士号授与。1987年、国際コミュニケーションのコンサルティング会社(株)ユニカルインターナショナルを設立。1996年から毎夏「国際女性ビジネス会議」をプロデュース。2000年、ダイバーシティコンサルティング会社(株)イー・ウーマンを設立。日本初のダイバーシティ数値化「ダイバーシティインデックス」開発、女性取締役・監査役の斡旋紹介、研修アレンジ、商品開発などを提供している。また、現在、小林製薬、日本郵便、エージーピーの社外取締役、厚生労働省の労働政策審議会の部会の委員、総務省の委員等を務めている。国内外での講演1500回以上。テレビ朝日「ニュースステーション」レポーターなど多くの番組のアンカー、コメンテータなどメディア露出も多い。ベストマザー賞受賞。

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